今日は日中わりと暖かかったです。春も近づいてきている証なのでしょうね。春といえば、心が弾むような、嬉しいこと、楽しいことが連想されますが、それと同じくらい別れに接することも多くなります。それは新しいことがやってくるためには必要なのかもしれませんが、やはり寂しく思いますね。
今日は久々に得意先事務所で仕事をして、終えてから一息ついたところで不意に報せがやってきました。15年くらい前から一時期、わたくしは芝居の世界に足をつっこんでいたのですが、その時の仲間が急に松山を離れる事になったので、簡単な送別会を今夜開くからよければ参加して、とのことでした。
その仲間とは、役者同士として同じ舞台に立った事はありませんが、自分が一度芝居の世界から離れた後、頼まれて裏方の手伝いをやった公演で一緒に作品を作ることになって知り合いました。繊細で味のある演技が出来る良い役者さんだなと、彼のことを評価していました。
それ以降わたくしはまた、芝居の世界とは距離を置いていたのですが、彼のほうはというとさらに芝居に入れこみ、仕事をする傍ら、いろいろな人たちとユニットを組んだりしながら没頭していたようです。度を過ぎて、時にはそれが原因で体調を崩したりもしていたようでしたが、そんな頃にはすっかり情熱を失っていたわたくしは、それをある種うらやましく思いながらも、深く接する機会を持てないまま、今日まで過ごしてきました。
考えれば当たり前の事なのですが、彼は大学進学を機にこの街へやってきたわけなので、こことは別に帰る故郷があるのですが、そこへ帰るという選択をするということを想像したことはありませんでした。もっとも今日、話を聞いてみて、彼本人にもそれを選ぶ事は半年くらい前まで考えていなかったようですが。
自分でも不思議なんだけど、と前置きして、彼がこの結論に至るまでの話を聞かせてくれました。ぼんやりとした発端はある1本の映画で、それを観て泣いて、合計4度も観て。それで自分の中に、家族との繋がりをもっと大切にしたいという感情が沸き上がっているのに気づいたのだそうです。それまでは親との関係もそれほど良好だったわけでは無いのに。
それから、再び体調を崩してしまった時、お母様が故郷から訪ねてきてくれて、高齢な身なのにこの距離をわざわざ来てもらうくらいなら自分が近くに移り住めば良いのではないかと突然閃いたのだそうです。
と言っても、もうかれこれ実家を出て独り暮らしが長い身としては、再び実家で同居するのも面倒だし、かといって故郷の街で部屋を借りるのもコストがかかるからなあと思いながら、とりあえず情報だけ集めてみていたら、あれよあれよと言う間に家賃の安い物件が見つかり、そこに入居できる権利も手に入り、転居するという返事を1週間以内にすれば確定、しなければ放棄という決断を迫られるところまで来てしまったのだそうです。
その際には慣れ親しんだこの街のこと、仕事のこと、そして何より芝居のことやその仲間と離れることに悩みもしたそうですが、それでもふと、この波に乗っておこうと思って移住する決断を下したのだそうです。特に根拠もうまくやる自信も無かったけれど、そのほうがいいと思ったのだそうです。
そう話す彼の言葉を耳にしながら、やっぱりわたくしも、何の根拠もないけれど、ああ、これ上手に波に乗ったな、良い方向に歯車が動いてってるなと直感しました。聞き終わって、「あ、そう決めたので良かったと思うよ。きっと上手くいくよ」と自然に笑顔になりながらそう彼に伝えました。
この波に乗っておこう、と彼も言いましたが、人生って、サーフィンみたいだよなとよく思います。上手く乗れた時って、動き出した様々な物事が、自分を良い方向へ運んでいく波のように次々と現れてくれます。本当に不思議なものです。
別れなので寂しい気持ちもありましたが、にこにこと温かい気持ちで見送る事ができました。また会えるよ、というこれまた根拠の無い確信も感じましたし。
いつだってこんな風な別ればかりだといいのに、とほろ酔いの道を歩きながら思った春の間際の夜でした。