小豆島で見た瀬戸内国際芸術祭の作品をもう少しご紹介しましょう。先の王文志(ワン・ウェンチー)さんの「オリーブの夢」を観た後、バスの時間が中途半端だったので川に沿って20分くらい歩いたところにありました斎藤正人さんの「猪鹿垣の島」という作品。
あ、20分も歩かなくてもバスで行けますからね。常盤橋というバス停で降りれば徒歩3分くらいです。
猪鹿垣は「ししがき」と読むのだそうで、小豆島では江戸時代の頃から、農地を猪や鹿による食害から守るために、石や土を積んで作られていた防護壁のようなものだそうです。それを、古来の石積み技術などを活かしながら現代にアート作品として蘇らせるというような趣旨の作品。
後で知ったのですが、2013年の開催時にも出品されていて、今回はそれをヴァージョンアップさせたものだということです。猪鹿垣だけではなくお城も作っちゃいましたとのこと。なので視界に真っ先に飛び込んでくるのはこれ。
むむむ、なんだこの天守閣は!
でもユニークですね。のどかな農村風景の中に突如現れる不思議なピラミッド状のお城。なんじゃこりゃ?の第一印象のあとは、意外と見飽きずしばらく眺めていました。
それと、前回作った猪鹿垣に引き続いて作り足したそうなのがこのあたりの壁。瓦と土を交互に重ねて飾り板を埋め込んで、なんか島っぽい雰囲気を作り出しています。
この作品の展示場所、いつもいらっしゃるのか判りませんがガイド役のおじさんがいて、その方がなかなか個性的なキャラクターだったのでその印象が強く残っています。「はい、これがお城!」「それからこっちが石垣!」みたいな威勢の良さで、良い意味で誇らしく案内をしてくれました。最初、このおじさんが作者の方かと思ったくらいなのですが、これも後から情報で、この作品は地元の方も制作に協力的で力を合わせて作ったそうなので、我らの作品と誇らしく感じられるのも当然かもなあと思いました。
それで、「はい次、こっちの石垣も見てね。ウルトラマンもいるよ!猫もいるよ!」って言われて導かれたのがこちら。
これまた何ぞこれ?という第一声が出てしまいました。ウルトラマンや猫が祠に祀られて道祖神のような扱いになっていることの奇妙さや違和感を感じるのですが、物によってはこれ、見に来た人が本当にお賽銭を前に置いてたりしてるのですよね。そうなるともう、ヒーローや動物が崇拝される偶像と化していって、なんだか本当にご利益があるようにも思えてきました。「鰯の頭も信心から」という言葉がありますが、それを目の当たりにしているような感覚です。
ガイドのおじさんが、「はい!じゃあ最後、展望台、見てってねー」と言って促されるまま展示場内の一段高いところへ足を踏み入れました。
「どう、いい景色でしょう。山と田んぼと空と。島なのに海はないけど、この地区のいいところがよく見える。気持ちいいでしょう?」
「じゃ、案内はこれで終わり!また来てください。気をつけて帰ってね」
と、そんな感じで会場を後にしました。観覧料は無料。ただ作品だけ置かれていたら「手作りのお城か、ふーん」だけで終わっていたと思うんですが(実際、今朝まで記事にするつもりもなかったのです)、あのガイドのおじさんのことを思い出すと、その土地に密着してその土地で生きる人と密接に結びつくような、こういうあり方のアートもいいものだなあと感じたのでした。