ビール片手にカウンターの隣人と愉快な時間を過ごす夜

仕事を済ませて帰り、おとなしく作ったカレーを食べれば良かったのですが、ついつい独り飲みに出掛けてしまいました。近々飲み会の席をセッティングしなければならないので、お店をどこにしようか考えていて、思いついたのがよく行くricaricaだったので、空きがあったら予約しておこうと出向いたわけです。え?電話でよくない?そりゃまあそうなんですけど…。

それでまあ残念ながらその日は既に予約で満席だということだったので、代わりに今日飲んどけと、コエドのIPAを一杯飲んで帰るつもりだったのです。が。

しばしマスターと二人だけだったので話し込んでいたところ、入り口のドアが開いて、お客さんが入ってきました。ふと顔を向けると、どうやら外国人の方のよう。お一人だったので、カウンターの並びの席に座られました。半袖から伸びる腕はお顔と同じく白いはず、なのに青い…。帽子をとると、何と言うか、毛足の短いモヒカン?

あ、これ、もしかして怖い感じの人?と内心身構えつつ、様子を窺いながら2杯目のビールを飲んでいました。彼はビールを頼もうとして、でもメニューの文字がよくわからないようで、どんな種類のビールがあるのかを尋ねたいのだけれど、それを日本語でどう伝えたらいいのか解らないようでした。マスターに「英語話せますか」と訊いています。「話せない。日本語だけ」と返して、わたくしに「英語話せる?」と投げてこられました。

Yes、と言いたいところですが、残念ながらNoでした。わたくし実のところ一年間の海外生活経験というものがあるのですが、今日この出来事によって、恐ろしいくらいに英語を忘れていることを思い知らされたのです。彼が英語で言おうとしていることは、なんとなく理解出来るのだけれど、それに対する返事を英語で何と言うべきか、単語が全く出て来ないのでした。

マスター曰く、最近ネットの検索結果を頼りに、日本語が全く話せない外国の方がよく来店するのだとか。それでもフィーリングで単語を並べていると、だいたい伝わるのでそれで乗り切っている、文法なんかは知らん、と。でもわたくしも海外放浪中はそんな感じで生き延びたものでした。

さて、カウンターに座った彼なのですが、同じくIPAを頼んで飲みながら、慣れない日本語混じりの英語で話しかけてくれました。イギリスのレスターという街から来た。ガーデニングの仕事をしている。3週間の休暇を得たので日本を旅行している。長崎、福岡、松山、ときて次は岡山へ行くつもり。そのあとは京都、東京と。四国には行ってみたかったので、一番大きい街の松山へ立ち寄ってみた。この店はインターネットで調べた(やっぱり)。などなどと。

そして気になっていた腕の青いの。もちろんタトゥーでした。が、目を疑ったのが左手の指。人差し指から小指へ1本づつにひらがなで、「よ う か い」と書いてありました。ようかい…って、妖怪?まさかと思いましたがその通りで、日本の妖怪が好きで、タトゥーもよく見ると、こなきじじいのようなものや、一反木綿のようなものなどが、綺麗なタッチで描かれていました。スカルではなく骸骨だという辺りに本気さをビシビシ感じました。マスターがゲゲゲの鬼太郎の話をしてもピンとこなかったようなので、オレっちもジバニャンの話はやめといたニャン。

その後なぜか音楽の話になり、彼はヘヴィーメタルなどが好きだと言うので、マスターがマキシマム・ザ・ホルモンを聴かせたらかなり気に入ったようで、バンド名を忘れないようにとマキシマム・ザ・ホルモンとメモしていました。彼からは日本のバンドでこの人たちが好き!知ってる?とSighというバンドと、BORISというバンドを教わりましたが、全く知りませんでした。調べてみるとどちらも90年代から活躍していて海外では認知度の高いバンドのようでした。

ジャズも好きなので、せっかくだから松山でそういうのを聴けるお店にも行ってみたいと彼が言うので、行ったことはないけれどこの近くにJAZZ IN GRETSCHってお店があるよって教えてあげると、彼は上機嫌で帰っていきました。

そのイギリス人の彼と入れ替わりで若い常連さんがやってきて、その彼も実はインディーズでは売れっ子のベーシストだったとか、イタリアに行ってみたいが今行くべきかとか(どう考えたって今行くべきだろ、という状況でした)、タトゥーに憧れてるけど入れてみたいのは家紋やジブリのキャラクター、などというぶっ飛んだ話で盛り上がったのですが、これ詳しく書くと朝までかかりそうなのでやめます。

人見知りのくせに、ビール飲んでるカウンターにたまたま居合わせた人と、どうでもいいようで奥が深い話ができるのは、とても楽しくてたまりません。夕食を家のカレーで済まさず、ビールにつられてふらふらと出掛けたのは、やっぱりこういう妙な出会いに引き寄せられていたんでしょうなあ。

そして英語力が失われていなければもっと楽しかったのにね、ううっ。

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