頼まれ仕事がちょっと遅れ気味なので少々焦りも感じ始めています。今日は一気に片付けよう…と思っていても新しい日には新しい用件が目の前に積まれるわけでして、思うようにはいきませんがそのハンドルさばきも仕事の能力のうち。
そうは言ってもこの目の前の仕事は単純作業の部類なので、淡々と片づけていくだけです。この類のものはBGM有りのほうがハイペースでやっつけられるので、今日は一人きりの得意先事務所でiPodを鳴らしながらダーッと進めました。
本日のBGMはスガシカオさんが1月にリリースしたアルバム「THE LAST」でありました。最近はこのアルバムが気に入っていて、よく聴いていますし、自然と口ずさむようになりました。
スガシカオさんは1997年にメジャーデビューして2011年に事務所を独立するまでは、メディアでの露出も多く、他のアーティストへの提供も含め優れたヒット曲を連発していました。わたくし自身も2002年頃まではかなり熱心なリスナーでした。
おそらく世間的にはそれ以降の時期の方が馴染みがあるのだろうと思うのですが、自分が1年日本を離れた間に自身の感覚とスガさんの音楽の方向性が少し違う向きになったせいか、シングルで言うと「青空」とか「アシンメトリー」とかあたりくらいから遠ざかっておりました。
突然の事務所独立宣言と完全なフリーランスとしての再出発のニュースには驚きましたが、それによってインターネットで自らが発信していくスタイルを取るようになったスガさんは、帰国してすっかりテレビを見なくなったわたくしにとっては逆に身近な存在となりました。
ただ、わたくしはダウンロードで音楽を聴く習慣がなかったので、意欲的に自分のやりたい活動をしているスガさんの様子を知ることができても、パッケージングされた音楽が手元に届けられるまでは、旧作を楽しむだけだったのです。
ちなみに過去作品で一番好きなのは「月とナイフ」かなあ。
それで、2014年にメジャーレーベルと再契約して、この1月に満を持してアルバムをリリースすると聞き、迷わず購入することに決めました。
一曲目の「ふるえる手」。予想外の曲調による幕開けと、そしてとんでもない角度から斬りつけてくる歌詞に背筋が凍りました。探してみたらこのアルバムの宣伝用「予告編」に使われていたのでお試しください。
”いつも震えていたアル中の父さんの手”
ふるえる手ってそういう意味だったのか!!ゾクゾクして涙が出そうでした。これをオープニングに持ってくるなんて攻めていますねえ。
続く「大晦日の宇宙船」も曲展開が面白くてなかなか良いと思います。スガさんはかつてはJ-POPなんてくくりに入れられていましたが、この曲なんてロックでもファンクでもあり、パンキッシュでノイジーで、あとなんだろ、まあとにかく整然とした雑多な感じが格好いいなあと感心しております。
こっから後は、かつての黒っぽいノリもふんだんに盛り込みつつ、際どくてエロい歌詞も尖らせつつ、心を鷲掴みにされたまま引き摺り回されます。「あなたひとりだけ幸せになることは許されないのよ」「おれ、やっぱ月に帰るわ」「青春のホルマリン漬け」とか心の裏側にこびりついた落ちない汚れを見せられているようでかなり好きですね。そしてそんな中ひねくれた純情っぷりを見せる「オバケエントツ」もお気に入りの逸品です。
そうそう、それと今の時点ではまだ流通しているようなので、もし購入されるならば2枚組の初回限定盤が良いですよ。付いているもう一枚は「THE BEST 2011-2015」と題されたアルバムで、これは独立後フリーランスになってから発表された作品をまとめたものなのです。こちらを聴いてから「THE LAST」を聴くと、こういう軌跡を辿ってこういう音楽を追求していきたかったんだなあというのも見えてきて面白く思えます。
ちなみにわたくし実はこちらに期待して買ったのですが、到達点である「THE LAST」の完成度が高すぎて結果的には「THE BEST 2011-2015」の方はそれほど再生しないということになってしまいましたが。でもフリーランスで仕切り直しの第1作だった「Re:you」なんて、みなぎる決意と活き活きとした熱さが良いですよ。
作る音楽も好きなんですが、わたくしがスガシカオさんについて好感を持っているところは、地に足がついているようなところです。サラリーマン生活を経てミュージシャンになった経歴とか、ミュージシャンになるために100万貯めて会社を辞めたとか、彼のデビューにまつわる裏話はなんとも異色な感じでありますし。でも現実を見つめて自分がやりたいことに照準を合わせて全力で挑む姿勢は尊敬に値しますし、影響を与えられたと思います。
なので、自分のやりたい音楽と求められる音楽が食い違ってきたらスパッと環境を変えて作品作りを優先して、地道な努力で実力をつけて、今度はそれを多くの人に届けるために再度メジャーレーベルと契約するという一連には脱帽してしまうのです。
話は逸れますが、わたくしも妙な運命で今はひとり会社の経営者みたいなことになっていますけれど、そういう立場でいることを(もし何かの事情でまた会社畳んでサラリーマンになるという可能性も含めて)怖がらず堂々とやっていこうと踏み出せたのは、スガさんの独立以降の姿と音楽があってのことだと思うのであります。こんなアルバムのような素晴らしい結果が出せるように自分も頑張らねば。
閑話休題。「THE LAST」の締めくくりは、唯一アルバム発表前にリリースされていた「アストライド」という曲です。
これを聴いて、すぐ気づく方もいらっしゃるかもしれませんね。わたくしは、スガさんと同じようにメジャー→自主レーベル→再度メジャーという経歴を持つフラワーカンパニーズのファンでもありますから、彼らの「夜明け」という曲にも通じるメッセージを掬い出すことができました。
前述のオープニング曲「ふるえる手」とエンディング曲「アストライド」のどちらにもこのフレーズが織り込まれているのは偶然ではないと思います。
”何度だって やり直せばいい”
混沌から突破口が見えているのに手を伸ばせない人は、是非このアルバムを聴いてみてください。