今朝はまず電話で作業中止の悲しい知らせが。雨が降るのは午後から夕方にかけてだと踏んでいたので半日だけでも作業できると思っていたのですが。そして、じゃあ今朝は久々にゆっくりするかとMacでニュースを覗いていたら、それどころじゃない悲しい知らせ。今度は英国の歌手George Michael氏の訃報でした。
ちょうど時期的なこともあって、George Michael氏といえば、ポップデュオWham!の一員としてLast Christmasを世界的に大ヒットさせた人、という説明が一番わかりやすいようです。多くのメディアもそう書いておりました。
亡くなったのは英国時間でいうと12月25日なので「まさにこのクリスマスがラストクリスマスになったのか」などとつぶやいている方も多数見かけましたが、あの曲の場合のLastは「最後の」という意味ではなく「前回の(去年の)」という意味なのでご注意くださいませ。
ちなみにわたくしにとっては、世代的にはWham!世代と言ってもいいくらいなのですけど、洋楽を聴くようになったのは彼らが解散してからだったので、Last Christmasには大して思い入れはありません。後追いで聴いた感じではFreedomとか敢えての邦題でウキウキウェイクミーアップとかが好きですね。
でもやっぱり彼の音楽と本格的に出会って対峙して聴き込んだのは、ソロとなっての1st Albumである「Faith」です。発売されたのは高校1年生の時だったのですが、実は今でも愛聴盤でして、時々引っ張り出しては(今はiTunesで検索すれば即ですが)聴き続けています。
確かこのアルバムからのリードシングルは「I Want Your Sex」という高校生にとっては赤面して黙り込むかキャーキャー囃し立てるようなタイトルで、当然わたくしはそのタイトルだったからこそGeorge Michaelの世界に足を踏み込み惹かれました。この曲、ラジオオンエアなど向けの短いシングルエディットが出回っておりますが、実はPart 1 & 2 & 3とありまして、トータルで12分以上あります。どんだけSEXしたいんだよ!って思う反面、まるでその営みそのものな音の流れに大人となった今は吹き出してしまうくらいです(笑)。
で、当時はCD黎明期で、そのPart 3と収録曲のリミックスヴァージョンがボーナストラックとしてCDには収録され11曲入りとして流通しているのですが、本来は9曲入りのアルバムなのですね。その中から先行の「I Want Your Sex」のほかアルバムタイトル曲の「Faith」に続いて全部で6曲がシングルカットされています。
当時の英米の音楽業界では、アルバムを作ってシングルをリリースして、アルバムが売れれば売れるほど収録曲からどんどんシングルカットしていくプロモーションが主流でしたから、3分の2をシングルカットというのはアルバムどんだけヒットしててん、という話でもあります。そりゃ30年近く経っても色褪せないはずですわ。
その中から地味目な名曲を3つ。
Father Figure
One More Try
Kissing A Fool
どれも歌詞が難解で意味がわかりにくいなあという部分があったのですが、のちに彼が公然わいせつで逮捕、そしてゲイであることをカミングアウトという流れでなんとなく、「僕がお父さん代わりになってあげる」とか「先生、僕はそんなこと教わりたくはなかったんだ」とか「周りの人の言葉に怯えて君は僕から去って行った」とかいう部分が、ああつまりそういうことかとするりと飲み込めたのでした。まあ詩なので解釈次第で正解はないと思いますが。
で、3曲挙げるのになぜ同じアルバムばかりから?というのは、それ以後の彼の作品をほとんど聴いていないからなのです。「Faith」の次には「Listen Without Prejudice Vol.1」という長くて覚えにくいタイトルのアルバムをリリースしたのですが、タイミングを逃して聞けずじまいになり、そのまま彼の作品から離れることになってしまいました。
雑誌などで目にするレビューもあまり芳しい評価ではなかったので「Listen Without Prejudice Vol.1」は聴きたい音楽の中から優先順位はどんどん下がってしまったのですが、でもそれは要するに、「Faith」が素晴らしいアルバムすぎて、その延長線での第2作を期待している人ばかりだったので、彼の新たな冒険を受け入れられる人は限られていた、というだけのことだったようです。実際、本国イギリスでは「Faith」に見劣りしないくらいのヒットはしているそうです。
ちなみにこのアルバムタイトルにVol.1とついているのは、実は当初2枚組での発売の予定で、様々な事情で先に完成した部分をVol.1として発売し、続いてVol.2をという流れになったからなのだそうです。しかしアメリカでの売れ行きの悪さと酷評でレコード会社と揉めて裁判沙汰にまでなり、結果Vol.2はお蔵入りになるということに。
そしてそれからは、前述の公然わいせつやら薬物使用での逮捕服役やらで音楽よりもスキャンダル面で彼の名前を耳にすることが多くなってしまいました。キャリアの長い彼だから多くのアルバムを残しているのだろうなと未聴の作品を調べていたら、ソロ名義のオリジナルアルバムは前述の「Faith」「Listen Without Prejudice Vol.1」の他には「Older」「patience」の計4枚しかリリースしていないのだそうです。
今日の訃報を聞いて、ようやく未聴の3枚をApple MUSICで聴いてみたのですが、実際に耳にしてみて「Listen Without Prejudice Vol.1」はちっとも低い評価を得るようなアルバムではないじゃないかという事実に今更気付きました。正直、今日初めて聞いて、なぜもっと早く聞かなかったのだと後悔しましたよ。
そしてその後の「Older」にしても「patience」にしてもそう。ドライなメロディにウェットな声、またはその逆パターンで、どことなくエロさ漂うGeorge Michaelの世界は、世間の軸でPOPだろうとなかろうと、自分の心には崇高で下世話で心躍るようで賛美歌のようで、唯一無二なものでした。その世界の続きがもう聴けないというのはとても残念なことであります。
色々な人の哀悼のコメントから、今日新しく知ったことがありました。George Michaelの本名はGeorgios Kyriacos Panayiotou(ヨルゴス・キリアコス・パナイオトゥー)なのだそうですが、彼は子供の頃から内気で、自分の中で「ジョージ・マイケル」という架空のヒーローを想像し続け、後に自分がデビューしてから、もう一人の架空の自分であるとして、「ジョージ・マイケル」を名乗るようになった、というのが名前に関するエピソードなのだそうです。
晩年のヨルゴス氏が果たして幸せだったのか、それはわかりませんが、彼の想像が生み出したヒーロー「George Michael」はわたくしにとっても勇気と希望と楽しさを与えてくれるヒーローでした。彼と、彼の音楽に出会えて、とても幸せです。ヨルゴス氏よ、どうか安らかにお眠りください。